2014年9月24日水曜日

WFOEについてアリババの事例から学ぶ

9月19日にAlibaba Group Holding Limitedがニューヨーク証券取引所に上場した。2300億円の時価総額を付けて筆頭株主のソフトバンクに8兆円の含み益が発生とかたいへん景気がいい。

アリババの本社は中国のYu Hang DistrictのHangzhouつまり浙江省杭州市にあるようだが、SECへ提出したForm F-1(上場目論見書)を見ると、登記はケイマンになっている

さらに言うと上場したAlibaba Group Holdingは直接的にも間接的にも、alibaba.comとかTaobaoとかアリババの事業を行っている中国の法人の株式を持っていない。

なんでそんなことになるのかが目論見書に書いてあったので、それ以外の情報もネットで見ながら調べてみた。


1. なぜAlibaba Group Holding Limitedはアリババの株を持ってないのか

中国の法令により、インターネットコンテンツ事業の運営会社については、外国人株主割合に上限がある。そのため、実際にアリババの事業を行っている中国法人の株式を上場させると、不特定の個人・法人が株主となり外国人株主割合が収集つかなくなる。

そこで、中国法人の株主は中国人のままにしながら、上場のために外国籍の法人(ケイマンやBVIのSPCが多いようだ)を用意し、このSPCへ中国法人の利益を移転させる。投資対象にしたい中国法人の業績を反映したSPCを香港やNYに上場させることにより、形式的には中国企業の株主は中国人のみにも関わらず、当該企業が上場したような効果を、発行会社と投資家の両方が享受することができる。

これを実現するためによく用いられているのががWFOEと呼ばれる仕組みだ。

2. WFOEのしくみ

WFOEはWholly Owned Foreign Enterpriseの略で、外国人および外国資本のみによって設立することのできる中国法人。逆にWFOE以外の法人を中国で設立する場合には、何らかの形で中国人の参加が必要。



上の図ははアリババがWFOEの説明のために目論見書に掲載したものだが、これに沿って説明すると、今回NYに上場した株式を発行しているAlibaba Group Holdings Limitedは、図の上にある"Our Company"になる。実際のアリババの事業、例えばアリババの中核であるAlibaba.comや1688.comの運営を行っているのはHangzhou Alibaba Advertising Co., Ltd.でこれは図の右下の"Variable Interest Entity"(VIE)にあたる。
(注)VIEは日本語だと持分変動事業体とか言われていて、子会社ほか連結対象とすべきもろもろを包括した概念、の様子
VIEの株主は、上述の通りAlibaba Group Holding Limitedあるいはその子会社とは別の中国人。Hangzhou Alibaba Advertisingの場合は、アリババの創業者で会長のJack Maが80%、同じく創業メンバーで副社長のSimon Xieが20%を所有している。

そして、Alibaba (China) Techonlogy Co., Ltd.がWFOE(図の左下)となって、Alibaba.com事業の経営成績をAlibaba Group Holdingの業績に取り込んでいる。

3. 株主を持たずに支配して利益を吸い上げる方法

上場した方の会社の会長がVIEの大株主だからと言って、VIEの利益を株主でもない相手に分配する筋合いはない。そこで、外国人が中国法人の株主になれない状況でなんとかVIEの利益を取り込むために、契約関係でVIEを支配して利益を分配させている。

目論見書の中で言及されているのは
支配のための契約4つ
(1)貸付契約(WFOEからVIEへの融資)
(2)排他的株式買取契約(VIEの株主による株式譲渡を制限)
(3)議決権委任契約(VIEの株主はWFOEが指名する者へ議決権を委任)
(4)株式質入契約(VIEの株主は持っている株式をWFOEに担保として提供し、一連の契約に違反したときにはWFOEが優先的に回収)
利益取り込のための契約1つ
(1)排他的技術サービス契約(WFOEがVIEへ技術サービスを提供し対価として税前利益全額を支払う)

4. WFOEが崩壊した事例

ところで、昔マザーズに上場していたデザイン・エクスチェンジという会社はWFOEの仕組みで中国の会社を連結子会社にしたのだが、途中からその中国企業が言うことを聞かなくなり連結から外したという。

WFOEも完璧な仕組みではないようだが、詳細は不明。また別の機会に調べることにする。

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