2014年6月19日木曜日

HFTが儲かる仕組み~Haim Bodekの主張する説

Haim BodekはUBSやゴールドマンで、主にオプション市場でのアルゴリズム取引を行っていた人物で、その後独立してTrading Machines LLCというHFTオプション取引会社を始めたのだが、他のHFT業者と取引所が結託してイカサマをしていたせいで儲からなくなり、会社を閉じたという人物だ。Scott PattersonのThe Dark Poolsにその辺の経緯が詳述されている。

さて、そのBodekによるHFT業者に対する恨み節を並べたThe Problem of HFTを読んだ。

Flash Boysと違って結構アメリカの証券法制や独自の発注方式についての前提知識が必要だったので、けっこうわからないところだらけだったけれど、いろいろ解釈したところ彼の主張すポイントは以下の通り。

1.特別な注文方法の存在

  • HFTが行っている最大の不正は"Queue Jumping"、つまり価格が同じなら先に出した注文から約定する時間優先原則を踏みにじっていること。
  • なぜそんなことができるのかというと"Hide and Light"という注文方法のおかげ。
  • Hide and Lightが何かを説明するためには"Locked Market"の禁止について理解が必要。
2."Locked Market"とは
  • Locked Marketというのは、一つの銘柄について最良買気配と最良売気配が同じ値段のまま約定されない状態のこと。取引所が一つなら当然に同じ値段の売買は約定されてしまうので、こういった状態は発生しないが、いくつもある場合は可能。
  • そして2007年に施行されたReg NMS Rule 610によりLocked Marketは禁止(違法と)された。
3.(通常の)指値注文の取り扱い
  • 仮にGMのNBBOが34.50/34.60だったとする。この時に個人投資家がDirectEdgeのみで執行という条件を付けて34.50の指値売り注文を出したとする。
  • その場合、 個人投資家のDirectEdge限定の売り注文はNBBOの買い気配と同じ値段になり"Locked Market"になってしまう。
  • しかし法律で"Locked Market"は禁じられているのでDirectEdgeは34.50の売り注文をSlideして指値34.60の売り注文という形にしてNBBOの気配に表示される。
  • そして、どこかから売り注文がやってきてNBBOの34.50の買い注文が消えて、最良気配が34.49以下に下がると、DirectEdge限定の34.50の売り注文は34.50に指値を映してNBBOに表示される。
4."Hide and Light"による注文
  • 同じ状況で、通常の指値売り注文の代わりに、"Hide and Light"で34.50の指値売り注文を出すとどうなるか。
  •  どんな注文形式であってもLocked Marketはあってはならないことになっている
  • そこで、DirectEdgeはこの注文を「非表示」にしてしまいNBBOに表示されないようにする。
  • 通常の注文のように値段を最良売り気配にSlideすることもない。指値は34.50のまま隠す。
  • そして、最良買気配が売り崩されたら"Light"、「表示」してNBBOに反映される。
5.Hide and Lightの効果とは
  • 指値を動かすかあるいは非表示にするかで何が違ってくるのか。
  • さっきと同じNBBOが34.50/34.60の状況を想定する。
  • ここで個人投資家が「通常の」指値売り注文をDirectEdgeでだけ執行を条件にして34.50で発注する。
  • その直後にHFTが"Hide and Light"による指値売り注文をDirectEdge限定では同じく34.50で発注する。
  • 前述のとおり、個人投資家の指値売り注文はいったん34.60へSlideされる。
  • かたやHFTの指値売り注文は指値を動かさずに34.50のまま「非表示」にされる。
  • 先ほどと同様に第三者の売り注文が入りNBBOの34.50の買い注文がすべて約定する。
  • するとHFTの34.50の売り注文が表示され、個人投資家の売り注文も34.50へSlideされる。
  • そしてポイントは、先に発注したはずの個人投資家の売り注文は、後から発注したHFTの売り注文に劣後するということ。
  • おそらくいったん指値をSlideしてその後もとに戻すことに関係しているのだろうが、そういう仕組みになっている。
  • なお、Hide and LightはBodekがこのような注文を説明するために作った言葉で、実際には同種の注文は市場によって呼び方が違う。

 HFTはこのHide and Lightを利用して売買を有利に行っており、取引所はこういう「裏ワザ」について積極的に情報公開していない(少なくともBodekがファンドを運営し ていたころは)。さらには取引所は、マーケティングのためこういうテクニックの存在をこっそりHFTに紹介して注文を引き込もうとしている。

取引所が分断された営利組織になり、取引獲得の競争に勝つため得意先(HFT)の要望に応え続けた結果がこの背景にあるという主張はマイケル・ルイスの主張と重なっている。

さて結構ややこしい話を極力簡潔に説明したつもりだが理解できただろうか。我ながら心もとないのでネットで調べたらwsjがBodekに取材してわかりやすい記事(漫画つき)を書いていた。Bodekの本を全部読むのは面倒だというひとはぜひこの漫画を見てほしい。



ところでこのブログ、2010年ころの記載だけれども各取引所のHide and Light に類する注文の仕組みが書かれている。たぶん書いた人はHFTの中の人か。

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