2014年5月30日金曜日

商号変更があった会社の法人登記をどう探すか

ある会社の法人登記を登記情報提供サービスで探そうとしたら見つからなかった。いろいろ調べたらわかったが商号変更していたため、旧商号で検索してもヒットしなかったことが原因だった。

以前は旧商号で探してもちゃんとヒットしたような気がするのだがどこかでシステムが変わったようだ。

例えば、東燃テクノロジー合同会社という会社は2013年7月15日に商号変更してTGSH合同会社になったのだが「東燃テクノロジー」で検索しても探している法人は見つからない。「TGSH」で探さないと登記が見つからなくなっている。

社外取締役にしようかなと思ってた人が以前別の会社で取締役や監査役だったということなので、経歴を念のため検証しようとしたらこのような問題に気付いた。現在の商号がわかればいいんだけど常にわかるとは限らない。このままだとその人が役員をしていたことはおろかその会社が存在していたのかどうかすら確認ができない。

商号変更した法人を追跡するために取れる手段として次の2つを思いついた。
  1. 登記所の人に探してもらう
  2. 法人等番号で検索する
1.を試してみたらあっさり見つかった。登記情報提供サービス(ネット)と法務局のシステムは運営会社が違うらしく、法務局ならば、商号変更した会社でも旧商号と以前の住所がわかっていれば検索が可能だということだ。ただし管轄法務局でないと探せないという説もある。

2.については法人等番号を覚えている人は普通いない。しかし、2年前(2012年5月21日)から仕組みが変わり、それまでは本店移転(たとえば千代田区から横浜市中区)や組織変更(有限会社から株式会社)したら法人等番号が振り直されてしまっていたのが、それからはずっと同じ番号を使うことになった。なので法人等番号さえ記録しておけば商号が変わろうが本店をどこに変えようがいくらでも追跡可能になるので便利。

さて、東京法務局管轄の会社について法人等番号で探す際の留意点を一つ。 法人等番号は0000-00-000000と4桁、2桁、6桁の番号で構成されていて、初めの4桁は管轄登記所のコードになっている。現在東京法務局(千代田区、中央区他を管轄)のコードは0100なのだが、2010年1月までは0199だった。なので以前の法人等番号が0199-01-123456だった会社の場合は、0100-01-123456で検索しないとヒットしない。


2014年5月20日火曜日

Let It Goのオリジナル歌詞を和訳してみた

映画見ていないけどアナと雪の女王が気になってきたので英語版の歌詞を訳してみた。


英語歌詞の出典:http://www.metrolyrics.com/let-it-go-lyrics-idina-menzel.html

The snow glows white on the mountain tonight
真っ白な雪が山に降る今夜
Not a footprint to be seen.
一つの足跡も見えない
A kingdom of isolation,
孤立した王国
and it looks like I'm the Queen
そして私はその女王のよう
The wind is howling like this swirling storm inside
その風は私の中で渦巻く嵐のように唸りをあげている
Couldn't keep it in;
とても抑えきれない
Heaven knows I've tried
神様は私が懸命に抑えようとしたことを知っている

Don't let them in,
彼らを受け入れてはいけない
don't let them see
彼らに見せてはいけない
Be the good girl you always have to be
今まで躾けられたよういい子でいなければ
Conceal, don't feel,
隠して、考えてはいけない
don't let them know
彼らに気取らせてはいけない
Well now they know
けれどもう彼らは気づいてしまった

Let it go, let it go
それでいい
Can't hold it back anymore
もう秘密にはできない

Let it go, let it go
それでいい
Turn away and slam the door
考えを変えてドアを閉めよう
I don't care
かまわない
what they're going to say
彼らが何を言っても
Let the storm rage on.
嵐を激しく荒れさせよう
The cold never bothered me anyway
どっちにしても寒さなんてなんでもない

It's funny how some distance
面白いのは、ちょっとした距離が
Makes everything seem small
あらゆるものをちっぽけに見せるということ
And the fears that once controlled me
前は私の頭をいっぱいにしていた恐れが
Can't get to me at all
もはや何でもないことに

It's time to see what I can do
私に何ができるのか考えてみる時が来た
To test the limits and break through
限界を試しそれを超えるため
No right, no wrong, no rules for me,
私には正解、間違い、ルールもない
I'm free!
私は自由

Let it go, let it go
それでいい
I am one with the wind and sky
風と空が私の味方
Let it go, let it go
それでいい
You'll never see me cry
この先私は泣くことはない
Here I stand
私はここに立っている
And here I'll stay
そして私はここにいる
Let the storm rage on
激しい嵐をそのままに

My power flurries through the air into the ground
私の力は大気を地面に降らせる
My soul is spiraling in frozen fractals all around
私の心は遍在する雪の結晶の中で旋回している
And one thought crystallizes like an icy blast
そして思いつきで吹雪のように結晶にする
I'm never going back, the past is in the past
私はもう戻らない。過去は過去

Let it go, let it go
それでいい
And I'll rise like the break of dawn
私は夜明けのように立ち上がる
Let it go, let it go
それでいい
That perfect girl is gone
あの優等生はもういない
Here I stand
私はここに立っている
In the light of day
日の光の中に
Let the storm rage on
激しい嵐をそのままに

The cold never bothered me anyway!
寒さはもう気にならない


日本語版は意味が対応しているところもあれば意訳のところも

2014年5月19日月曜日

wsj記事~アナと雪の女王のサウンドトラックがまだまだ売れ続ける背景

6か月前に発売された「アナと雪の女王」のサウンドトラックが今も売れ続けて夏くらいまでは売れ続ける見込みであるというWall Street Journalの記事


なんで6か月前にリリースされたサウンドトラックが今後も継続的にうれるのか?

その答えの具体例としてアトランタのIT管理職Jone De Simone(41)のエピソードが紹介されている。

Joneには8歳の娘がいるがそれほどディズニー好きではないので映画館には見に行かなかった。けれど家族の映画デー用に、DVDが発売された3月に購入した。音楽は気に入ったので、娘の誕生日にサウンドトラックを買ってあげた。

確かになるほど映画を気に入った子供へのプレゼントに最適な感じがする。そういう需要であれば誕生日に買えばいいわけで、別に急いで買う必要もない。そして子供の誕生日は特に何月に集中しているわけでもないので継続的に売れ続けることが予想できるというわけだ。

こういプレゼント需要が強いことを反映してか、アナと雪の女王はダウンロードよりも実際にCDを買う人が多いそうだ。

2014年5月14日水曜日

FCC ライセンス番号1215095

Flash Boysを最後まで読んだ人ならFCCライセンス番号1215095 (FCC license number 1215095)の電波塔のことが気になるだろう。「ウソのようだけど本当の、偽善行為と機密の物語」とはいったいなんのことだろうか?

ということで解説しているブログをまとめたGizmodoの記事がわかりやすかったので要約してみた。ちなみにその電波塔の場所は下の地図の通り。ちょうどシカゴとニュージャージーの取引所(データセンター)の間くらいのペンシルバニア州の森の中に建っている。


大きな地図で見る


以下Gizmodoの内容を意訳して要約して引用

この電波塔のライセンス書類を提出したのはThesys Technologiesという会社の女性社員で、Thesysはニュージャージーに本部があるHFT業者Tradeworxの子会社。

TradeworxはSECのためにMIDASシステムを開発した。MIDASシステムは、SECにHFT業者と同じ速度で板情報を提供するだけでなく、分析ツールと判断基準まで提供している。さらにいうと、SECのウェブサイトではいつも、HFTは悪者ではないという分析結果が出ている。

TradeworxのオーナーのManoj Narangは、自身が電波塔の所有者であることは認めているが、金融情報を高速で伝達することだけが目的であり、不正行為は一切していないと主張している。
引用終わり

マイケル・ルイスは果たして、SECがまたHFT業者に嵌められているといわんとしているのかあるいは、SECとHFT業者が共謀関係にあるといおうとしているのか。反響が大きければ続編を書くのかもしれない。



2014年5月12日月曜日

なぜにHFTが儲かるようになったのか~~Flash Boysを読んで思うところ

前回に引き続きマイケル・ルイスのフラッシュ・ボーイズの読後感想。

そもそもなんでHFTが一般投資家から「抜く」ことが可能になったのかといえば、 1987年のブラックマンデーにさかのぼる。

1.マーケットメイクの電子化

ブラックマンデーの暴落時に、当時はまだ場立ちがいて人力で注文を受けていた。そしてマーケットメーキングという制度があり、マーケットメーカーになったブローカーは常に売買の気配を提示して、投資家の注文を受ける義務があった。

しかしブラックマンデー当日、10月19日、どこまで下がるのかわからない株式市場を見たマーケットメーカーは、恐ろしくて買いたくないので、実質的にマーケットメイクを停止した。具体的には投資家からかかってきた電話に出ないようにした。電話に出なければ注文を受けることはできない。

常に株式市場に流動性を提供するためにマーケットメイカー制度を作ったにもかかわらずこれでは意味がないということで、ブラックマンデー後に、電話に出ないといったやり方で注文から逃げることの無いよう、常に電子的に売買気配を出すシステムを導入した(Small Order Execution System)。

マーケットメーカー(ブローカー)たちはNasdaqの情報端末に 売り買いの気配値を入力するようになると、そのうちでも目端の利く人たちが、何らかの理由(担当者が居眠りしてたり二日酔いだったりetc.)で気配の変更が遅れたマーケットメーカーの注文を見つけて鞘抜きを始めた。最初はこの作業を人力で行っていたようだが、やがて端末からデータで情報を引っ張り出し、自動で裁定できるようにした。これがHFTのはるか昔の祖先ということになるのだろう。



2.二大取引所体制のおわり、取引所間競争のはじまり

こうした株の電子取引が広まっていくにつれてマーケットメーカーから鞘を抜くのではなく、そもそも取引所を新たに作ればいいのではないかという話になり、ArchipelagoとかIslandとかいったNYSEやNasdaq以外の私設取引所が誕生していく。取引所のビジネスモデルは集合の経済というか収穫逓増というか一か所に集中すればするほど価値が高まるので、本来であれば新興取引所に勝ち目はないはずだったのだが、新興取引所は果敢に参入した。その原因は独占で甘い汁(広すぎる売買スプレッド)を堪能していた既存の取引所にあるのだが、このあたりの経緯はScott PattersonのDark Poolsに詳しく書いてあるのでそちらを参照してください。

歴史的な経緯を踏まえたしがらみだとか職を失うスペシャリストをどうするとかそういった問題があるためだと推測するけどNYSEは取引の電子化に出遅れ、さらにNYSEの理事長の横領事件まで発生する。NasdaqはNasdaqでマーケットメーカーが談合してスプレッドを1/8ドル以下にしなかったとかいう問題で詰められて弱体化して、それ以外にも原因があるのだろうけど新興取引所に押されっぱなしになり、肝心の売買マッチングエンジンの開発でも後手に回った。といった背景を経てかつて株取引で圧倒的なシェアを持っていたNYSEとNasdaqはone of themとくらいにまで影響力を落としてしまう。(ちょっとこの辺の詳しい経緯は忘れたのでいずれ考察)



 3.取引所だって(今は)商売ですから


新興取引所の勃興と並行して2002年にNasdaqが、やや遅れて2006年にNYSEが自身を上場し四半期決算発表を開始した。当然恒常的な業績の向上(株価の上昇)を求められるようになる。取引所の収入は取引量に応じて増加するため、たまにしか注文を出さないウォーレン・バフェットのような投資家よりも小さく大量の注文を出してくれるHFT業者がありがたい存在になる。また、HFT業者にとってスピードこそが競争力で1ミリ秒の差が存亡にかかわることに気付いた取引所は、「場所売り」を開始した。取引所のmatching engineと同じ建物に注文用のサーバーを設置する権利が高く売れることに気づきそれを商売にし始めた。

Flash Boysによれば、ロワーマンハッタンにあるNYSEの立会場は4.6万平方フィートだったが、現在のNYSEの実質的な取引所(データセンター)は、取引が電子化されて小さくなるどころか40万平方フィートまで拡大した。NJの辺鄙な場所の土地が、NYSEのサーバーと同じ建物にあるというだけで何倍にも値上がりするのであれば、なるべく敷地を広くするのは合理的。

さらに加えて取引所はお得意さまであるHFTの注文が競合取引所に流れないように様々なサービスを追加していった。

呼び値の間隔縮小や注文処理速度の向上はその一例だが、100分の1セント単位で値段が動いたり、1ミリ秒単位で注文を処理するサーバーを導入したからといってHFT業者以外にさほどメリットはないだろう。

より質が悪いものは、flash orderと呼ばれる一部の投資家にのみ注文を早く見せる仕組み(批判にさらされたのでもう行われていない)や、Hide Not Slideといった特殊な注文形態の導入だ。詳しい仕組みは本を読んでほしいが、ルイスによれば、新たに導入された注文方式のほぼ全部が情報収集したいHFT業者のリクエストに応えたものである。例えば米国の株式市場で約定する注文のうちHFTの約定が占めるシェアは50%だが、注文におけるHFTのシェアは99%である。約定させる気のない注文はなるべく安いコストで獲物の情報を集めるための手段なのだ。



4. Reg. NMSの導入 そんなつもりじゃなかったのに・・・

Regulation NMS (National Market System)とは市場間競争を促すために2007年に導入された規制だ。2004年ころに、複数の市場で取引されている銘柄について、立会場で売買を突き合わせているスペシャリストが、投資家の注文を最良気配を出している市場ではなく別の市場に回して、投資家に不利な値段で約定させる、その差を自分で抜いてしまうという行為が問題になったことが背景となって始まった。

Reg NMSによって、ブローカーは投資家から受けた注文をすべての取引所に出ている気配のうち最良の気配(NBBO; National Best Bid and Offer)から順に約定させていくことが義務付けられた。例えばMSFT10000株の買い注文を成り行きで受けたブローカーは、一番安い売り気配が出ている取引所、例えばBATS、で100株約定させたのち、残り9900株の成行買い注文を次に安い売り注文を出している市場へと回送して次々約定させてゆく。

NBBOを担保するためにすべての市場に出ている注文の情報を集約したうえですべての市場に伝達するシステムがSIP(Securities Information Processor)だ。 それぞれの取引所は一番最初にSIPに気配情報を伝えるよう法律で求められている。SIPのおかげでブローカーや投資家たちは十幾つもある取引所を全部見て回ることなく、最良買気配と最良売り気配を見ることができるようになった。なんという投資家思いの素晴らしい制度!さすがアメリカさん!資本主義の殿堂!

しかし、SIPにまず情報を伝えなければいけないという法律はあるが、その速度については特に規制されていない。SIPを運営している取引所には特に気配情報を集約・伝達する速度を高めるインセンティブはない。かたやHFT業者は、SIPなどは見ずに直接各取引所にアクセスして最新の回線とルーターで情報を集める。つまり独自に「非公開の」自分専用のSIPを作ってしまっているのだ。そしてそれは禁止されていない。そのため一般の投資家はHFTよりも古い最良気配(NBBO)を見て、大げさに言えば1時間前の売買気配を見て取引している状態に置かれている。

どんな背景があっても最良気配から約定していかなければいけないというルールと遅いSIPがHFT業者のフロントランニングを可能にしている。一般の投資家を守るために施行されたReg NMSが、かえってHFT業者を利する結果になっているというのが皮肉。


いろいろ見てゆくとなんのことはない、かつて取引所でスペシャリストがやっていたのと同じこと、つまりは投資家の注文からちょろまかす、をHFTは洗練された形(より薄い幅でかつとてつもない頻度と速度)でやっているのだ。

2014年5月9日金曜日

予測市場について

予測市場がなんとかという本を読んだのでそのことについて。


予測市場とは、予想が当たればもうかる(予想が当たれば1万円もらえる)クジを発行して、それを市場参加者に自由に取引させることにより、市場参加者の集合知を利用して意思決定に役立てるための仕組み。

例えば、テレ東の大江アナが年内に結婚を発表すれば1万円をもらえるというクジを作る。そのクジは売り手と買い手が合意すれば好きな値段で自由に取引できるようになっている。仮に現在そのクジが5000円で取引されていれば、大江アナが年内に結婚を発表する確率は50%であると市場参加者が予想しているという仕組み。

そして、この予測市場はアメリカでは結構しっかり運用されていて、一番有名なのはIowa Electronic Market(IEM)というところの大統領選挙の予測なのだが、これまでどんな世論調査や評論家の予想よりも大統領選挙の結果を当てているそうだ。

素人が集まって予想しても役に立たなそうな気もするが、意外にもあたるとのこと。この背景にあるロジックとして4択のクイズ番組の例えがある。日本のも同じルールかは知らないが、クイズを出された回答者は答えがわからない時に、観客に正解を聞くことができる。正解を知らない観客がランダムに答えを選ぶとすると、仮に100人の観客がいて4人が正解を知っていれば、残りの回答を知らない観客は、平均すれば24人(=(100-4)/4)ずつ4つの選択肢に分散する。このため100人の観客のうち24+4=28人が正解の選択肢を選ぶことになり、観客の多数決を取れば正しい答えが選ばれる。

そのため、完全に運頼みのもの(宝くじの当せん番号、ルーレットの出目)を予想するには全く役立たないが、「知ってる人」や「詳しい人」の知恵があれば正解に近づくような問題には役立つ。本の中に出ていた例にはこんなのがあった
  • 今度公開する映画の興行収入はどのくらいになるか。
  • 現在進めているプロジェクトは予定通りに終了するか。
  • クリスマスシーズンの当社製品の売上はどのくらいか。
  • あと個人的にいいんじゃないかと思うのは「年内に中国の人民解放軍が尖閣諸島に上陸するか」
ポイントとしては、なるべくいろいろな人が自発的に意思を表明できる仕組みにすることなので、
  • 多様な市場参加者に取引させること
  • 市場参加者の匿名性を確保すること
  • 正しい予想をすれば利益が得られること
  • ショート(空売り)も買いと同じように簡単にできるようにすること
 が大切。 

自由な取引で価格を決めるということでいえば株式市場も予測市場ではあるのだが、そもそもの趣旨がちょっとちがう。株式市場の目的は資金調達の場を提供することで、予測市場の場合は人々の知識を正確に反映させて予想に役立てること。

したがって、株式市場ではインサイダー取引を許して、一部の人間だけがいつも儲かるようにしてしまうと一般の投資家が逃げてしまい機能不全に陥るが、予測市場ではインサイダーが積極的に取引に参加して内部情報を価格に反映させる方が目的に適う。

ただ、予測市場は賭博と紙一重だったり運営が面倒な模様で、どうもIEM以外長続きしていない様子。

本で取り上げられていたIntradeは予測市場の運営を一時停止しており、日本のWikipediaに出ている予測市場はほとんどがアクセス不能になっている。大変面白いし役に立ちそうな試みだと思うのだが盛り上がりに欠けるようだ。

この背景(特に日本で低迷している理由)についてはいろいろ分析されているがよくわからない。


2014年5月7日水曜日

HFTの仕組み~~マイケル・ルイスのフラッシュボーイズから

休みを利用してMichael Lewisの最新作、Flash Boysを読んだ。


High Frequency Traderらがどのように一般投資家(個人投資だけではなくヘッジファンドや投資信託などプロの投資家を含む)から利益をかすめ取っているのかと、それに対抗するため新しい取引所(IEX)を立ち上げた人たちについて詳細に描いてある。

本によれば、HFTの世界ではゴールドマンサックスやモルガンスタンレーといった大手投資銀行は二流で本当の一流はCitadelやGetcoほか小回りの利く会社。スピードでは全く太刀打ちできないため大手投資銀行は彼らのダークプールでそれらのHFTに取引させたり、顧客の注文をHFTに流すことで彼らから収入を得ている。生来的にHFTはスピードが最も早い1人が利益を得て、残りは敗者になる。「負けが見えている勝負をするよりも、強者に歩み寄っておこぼれを預かる方がましだ」という合理的な考え方ではあるが、誇り高い投資銀行がなぜという気もする。

リーマンショック以降投資銀行自身でリスクが取れなくなってヘッジファンドやプライベートエクイティと比較した地盤沈下がある様子だが、投資銀行という産業が長い目で見て凋落傾向にあることを示しているのかもしれない。

さて、この本を読んでようやくHFTがどうやって利益をあげているのかわかったのでその方法を忘れないようにメモしておく。マイケル・ルイスはこれらの取引手法を「醜いくらいに不公正な取引」(grotesquely unfair trading)と呼んで批判している。


1. electronic front-running

例えば、MSFT株の売り注文をいくつもの市場に最小単位で出しておき、どこかの機関投資家から出た買い注文が一つの市場で約定したらそれ以外市場に出している売り注文を取り消して、逆に自分以外が出している売り注文を先に買ってしまい、機関投資家の買い注文のうち約定していない部分にぶつけて売り抜ける。

HFT業者は各取引所への注文到達時間の差からどの投資家が出した注文か推定している。


2. rebate arbitrage

アメリカの取引所の多くはmakerに対してリベートを支払いtakerから手数料を徴収している。

いま市場でMSFTの気配が買い39.15ドルで出ているとする。あなたが成り行きで売り注文を出して39.15ドルで売ったらあなたはtakerになり手数料を払う、逆に39.15ドルで買い注文を出していた誰かはmakerになりリベートを受け取る。人々が自発的にmaket makerになるようにインセンティブをあたえるためこういう仕組みになっているようだ。

ところが一部の取引所(具体的にはBATS)ではmakerが手数料を払い、takerがリベートを受け取る仕組みになっている。

そこで顧客から注文を受けた仲介業者(投資銀行)は、リベートを含めれば一番コストが安くなる取引所に注文を出す。

一見すると合理的な行為のように見えるが、その取引所で注文がすべて約定しなかった場合、注文が入ったという情報は瞬時にHFT業者に伝わり他の市場に出ている注文をすべて先回りして拾われてしまう。

BATSに出ている注文のほとんどが最小単位(100株)であるため、本の中では明記されていないが、BATSはHFT業者の情報収集のために利用されており、そこに出ている注文は無知な投資家を誘い出す「撒き餌」である。

さらに言えばBATSはHFT業者が設立した取引所だということを考えると、BATSが利用されているという表現は適当ではないかもしれない。


3. slow market arbitrage

これは簡単な話で、大証と東証の任天堂の株価の売買気配に裁定機会が生じたらそれを拾っていくというだけの話。ただしそのスピードがミリ秒単位ということ。一つの市場にたくさんの買い注文が入り売買の気配が動いても、スピードに劣る他の市場は元の気配の変更がシステム的に間に合わないという状態を突く。

特に投資銀行が運営しているダークプール(HFT業者ほど早く市場の情報を収集できない)は、取引活性化のためにHFT業者に注文を出させているが、このダークプールに出された注文が狙われている様子。

本の116ページにRich Gatesというファンドマネジャーが経験した具体例が書いてあった。ある銘柄の売買気配が100.00-100.10で出ているときに、Gatesが投資銀行(GS)のダークプール(Sigma X)に100.05の買い注文を出した。その後気配が公開されている取引所に100.01の売り注文を入れた。先にダークプールに出した100.05の自分の買い注文とぶつかって約定するかと思ったら、別のだれかが100.01で買って100.05で売り抜けた。

先に出したはずの高い値段の買い注文よりもどこかのだれかが後から出した安い値段の買い注文が先に約定したのだ。ダークプールによる他市場の気配収集速度が遅いためこういう事態が発生する。

このことをWall Street Journalが報道したらSigma Xで同じようなことは起きなくなったが、Credit SuisseのダークプールであるCrossfinderをはじめ他のダークプールで同じことが起きるようになった。

現在この取引がHFT業者にとって最大の収入源になっている。


続く