2014年5月7日水曜日

HFTの仕組み~~マイケル・ルイスのフラッシュボーイズから

休みを利用してMichael Lewisの最新作、Flash Boysを読んだ。


High Frequency Traderらがどのように一般投資家(個人投資だけではなくヘッジファンドや投資信託などプロの投資家を含む)から利益をかすめ取っているのかと、それに対抗するため新しい取引所(IEX)を立ち上げた人たちについて詳細に描いてある。

本によれば、HFTの世界ではゴールドマンサックスやモルガンスタンレーといった大手投資銀行は二流で本当の一流はCitadelやGetcoほか小回りの利く会社。スピードでは全く太刀打ちできないため大手投資銀行は彼らのダークプールでそれらのHFTに取引させたり、顧客の注文をHFTに流すことで彼らから収入を得ている。生来的にHFTはスピードが最も早い1人が利益を得て、残りは敗者になる。「負けが見えている勝負をするよりも、強者に歩み寄っておこぼれを預かる方がましだ」という合理的な考え方ではあるが、誇り高い投資銀行がなぜという気もする。

リーマンショック以降投資銀行自身でリスクが取れなくなってヘッジファンドやプライベートエクイティと比較した地盤沈下がある様子だが、投資銀行という産業が長い目で見て凋落傾向にあることを示しているのかもしれない。

さて、この本を読んでようやくHFTがどうやって利益をあげているのかわかったのでその方法を忘れないようにメモしておく。マイケル・ルイスはこれらの取引手法を「醜いくらいに不公正な取引」(grotesquely unfair trading)と呼んで批判している。


1. electronic front-running

例えば、MSFT株の売り注文をいくつもの市場に最小単位で出しておき、どこかの機関投資家から出た買い注文が一つの市場で約定したらそれ以外市場に出している売り注文を取り消して、逆に自分以外が出している売り注文を先に買ってしまい、機関投資家の買い注文のうち約定していない部分にぶつけて売り抜ける。

HFT業者は各取引所への注文到達時間の差からどの投資家が出した注文か推定している。


2. rebate arbitrage

アメリカの取引所の多くはmakerに対してリベートを支払いtakerから手数料を徴収している。

いま市場でMSFTの気配が買い39.15ドルで出ているとする。あなたが成り行きで売り注文を出して39.15ドルで売ったらあなたはtakerになり手数料を払う、逆に39.15ドルで買い注文を出していた誰かはmakerになりリベートを受け取る。人々が自発的にmaket makerになるようにインセンティブをあたえるためこういう仕組みになっているようだ。

ところが一部の取引所(具体的にはBATS)ではmakerが手数料を払い、takerがリベートを受け取る仕組みになっている。

そこで顧客から注文を受けた仲介業者(投資銀行)は、リベートを含めれば一番コストが安くなる取引所に注文を出す。

一見すると合理的な行為のように見えるが、その取引所で注文がすべて約定しなかった場合、注文が入ったという情報は瞬時にHFT業者に伝わり他の市場に出ている注文をすべて先回りして拾われてしまう。

BATSに出ている注文のほとんどが最小単位(100株)であるため、本の中では明記されていないが、BATSはHFT業者の情報収集のために利用されており、そこに出ている注文は無知な投資家を誘い出す「撒き餌」である。

さらに言えばBATSはHFT業者が設立した取引所だということを考えると、BATSが利用されているという表現は適当ではないかもしれない。


3. slow market arbitrage

これは簡単な話で、大証と東証の任天堂の株価の売買気配に裁定機会が生じたらそれを拾っていくというだけの話。ただしそのスピードがミリ秒単位ということ。一つの市場にたくさんの買い注文が入り売買の気配が動いても、スピードに劣る他の市場は元の気配の変更がシステム的に間に合わないという状態を突く。

特に投資銀行が運営しているダークプール(HFT業者ほど早く市場の情報を収集できない)は、取引活性化のためにHFT業者に注文を出させているが、このダークプールに出された注文が狙われている様子。

本の116ページにRich Gatesというファンドマネジャーが経験した具体例が書いてあった。ある銘柄の売買気配が100.00-100.10で出ているときに、Gatesが投資銀行(GS)のダークプール(Sigma X)に100.05の買い注文を出した。その後気配が公開されている取引所に100.01の売り注文を入れた。先にダークプールに出した100.05の自分の買い注文とぶつかって約定するかと思ったら、別のだれかが100.01で買って100.05で売り抜けた。

先に出したはずの高い値段の買い注文よりもどこかのだれかが後から出した安い値段の買い注文が先に約定したのだ。ダークプールによる他市場の気配収集速度が遅いためこういう事態が発生する。

このことをWall Street Journalが報道したらSigma Xで同じようなことは起きなくなったが、Credit SuisseのダークプールであるCrossfinderをはじめ他のダークプールで同じことが起きるようになった。

現在この取引がHFT業者にとって最大の収入源になっている。


続く


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